抗うつ剤の種類とEDの関係
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浜松町第一クリニック 竹越昭彦院長 監修
向精神薬の中には、薬剤性EDを引き起こす可能性がある事が分かってきており、これらの薬を服用中でEDを認める場合には、注意が必要です。
しかしながら、それ以上に大事なポイントは自己判断による薬の調整をしてはならないということです。他のメンタルヘルス関連のページにも書かせて貰っていますが精神科疾患において、確かに薬剤による副作用が多いのですが、それ以上に内服薬の自己調整・中断による精神症状の悪化がとても多いのも現実です。
また、EDの原因において『最も可能性が高い』のは生活習慣病と加齢です。その点を無視して向精神薬のみをEDの原因としてあげつらう事も意味がない事だと思います。
以上の点に十分に留意して頂いた上で、お読みいただければと思います。
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現在では抗うつ薬としてまず選択されるものは SSRI や SNRI といった後述の薬剤ですが、その出現までは三環形/四環形抗うつ薬が広く使用されてきました。
しかしながら、口渇、便秘、排尿困難といった錐体外路症状を副作用として認める事も多く、より副作用の少ない薬を、という流れとともに、使用頻度は下がってきています。
また、こういった抗うつ薬には性欲減退の報告があり、薬剤性EDを引き起こす可能性があります。そのような場合には、抗うつ剤を休薬することは出来ないため、バイアグラなどのED治療薬を併用することとなります。
また、時折処方されていることを見かけますし、軽めの抗うつ薬として内科の先生が処方するケースもある『スルピリド』。少量投与が胃潰瘍の治療として使われる事もその手軽さに拍車をかけているかと思います。
しかしながら、スルピリドには血中プロラクチン値を上昇させる効果があり、高プロラクチン血症からEDが引き起こされる場合がありますので注意が必要です。
ED治療薬との飲み合わせという点では問題ありませんが、安易にスルピリドが使用されているのであれば薬剤調整を行うべきだと思います。
SSRI/SNRIとED
選択的セロトニン再取込阻害薬 / セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
セロトニン(とノルアドレナリン)を再取り込みするセロトニントランスポーターの働きを阻害します。セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを防ぐ結果、脳内シナプスの隙間のセロトニン・ノルアドレナリン濃度が高くなることにより、神経の伝達がよくなって精神が安定し落ち着きます。
他の受容体にはほとんど作用しません。そのため、抗うつ薬特有の副作用も少ないです。
SSRI 及び SNRI の中には性機能障害を認めるものもあります。ED治療薬との併用は問題ありませんので使用することは可能です。
ベンゾジアゼピン系薬剤/非ベンゾ系薬剤とED
世界で最初のベンゾジアゼピン系薬剤はクロルジアゼポキシド。
1950年代半ばにポーランド系ユダヤ人化学者のレオ・スターンバックによって見出され、1957年にはスイスのロシュ社より発売されました。
作用機序としては、GABA 受容体における神経伝達物質のγ-アミノ酪酸(GABA)の作用を強め、鎮静、催眠、抗不安、陶酔、抗けいれん、筋弛緩の特性があるとされています。
症例報告レベルでの性欲減退はありますが、それほど多くはありません。またED治療薬との併用も問題ありません。
気分安定薬とED
リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン
双極性障害の治療として使用されています。
特に薬剤性EDの報告はありません。ED治療薬との併用も問題ありませんので、使用していただくことは可能です。
抗精神病薬とED
統合失調症の記事にも書きましたが、抗精神病薬とEDにおいて最も重要なポイントが高プロラクチン血症の有無です。
クロルプロマジンやハロペリドールといった第一世代薬、リスペリドンやオランザピン・アリピプラゾールといった第二世代薬、 いずれにおいても高プロラクチン血症からEDを引き起こす可能性があると考えられます。
第一世代薬(クロルプロマジン・ハロペリドール等)
ドパミン遮断作用による高プロラクチン血症が起こり得ます。そのため、薬剤性EDや射精障害が認められるケースもあります。ED治療薬との飲み合わせは問題ありませんので、併用することは可能です。
第二世代薬
セロトニンドパミン拮抗薬(SDA) リスペリドン・ペロスピロン・ブロナンセリン等
抗セロトニン作用と抗ドパミン作用をあわせもつ非定型抗精神病薬。脳内のドパミンの取り込みが過剰になり過ぎるのを防いで陽性症状(幻覚、妄想、興奮)を抑えます。同じくセロトニンの取り込みを防いで陰性症状(感情鈍麻、意欲低下、無関心)改善する働きをします。
高プロラクチン血症の報告もあり、第一世代薬と同様に薬剤性EDや射精障害を認める可能性があります。
ED治療薬との併用は問題ありません。
多受容体作用抗精神病薬(MARTA) オランザピン・クエチアピン等
脳内のドパミンの取り込みが過剰になるのを防ぐ(ドパミン D2 受容体を遮断)ことで、ドパミン神経系の機能亢進から現れる陽性症状(幻覚、妄想、興奮)を抑えます。また、セロトニンの取り込みが過剰になるのを防ぐ(セロトニン 5-HT2 受容体を遮断する)ことで、ドパミン神経系の働きがよくなり、陰性症状(感情鈍麻、意欲低下、無関心)が改善します。さらに、アドレナリンやヒスタミン、ムスカリンなどいろいろな受容体にも作用します。
第一世代薬や SDA と比較すると、高プロラクチン血症を引き起こす可能性はかなり低くなっており、性機能障害の報告も稀です。しかし、MARTA には糖尿病といった耐糖能異常を引き起こす可能性があり、成人病の悪化によりEDを引き起こす可能性がありえます。
ED治療薬との併用は問題ありません。
ドパミンシステムスタビライザー(DSS) アリピプラゾール
脳内でドパミンが過剰に放出されているときは、ドパミンの放出量を抑制して過剰になるのを防ぎ、逆にドパミンが不足しているときには、ドパミン作動薬として刺激し、ドパミン量を増やす方向で働きます。(ドパミン D2 受容体パーシャルアゴニスト)。また、セロトニンに対しても、同じような調整する働きをします。(セロトニン 5-HT1A 受容体パーシャルアゴニスト、セロトニン 5-HT2A 受容体アンタゴニスト)。
この薬剤においては高プロラクチン血症を引き起こすことは稀ですが、射精障害、勃起不全の報告があります。
ED治療薬との併用は問題ありません。