AGA(男性型脱毛症)はどのように遺伝するのか?

浜松町第一クリニック 竹越昭彦院長 監修

AGAは、Andro(男性) genetic(遺伝性)Alopecia(脱毛症)を意味し、遺伝することをご存知の方も多いのではないでしょうか?では実際に、父親やおじいちゃん(祖父)、ひいおじいちゃん(曾祖父)の髪の毛を見れば、自身がAGAになりやすいのか分かるのでしょうか?またその場合は、誰の髪の毛を見ればいいのでしょうか?

AGAの遺伝子は、誰からどのように引き継がれているのか、詳しく見ていきましょう。

ここからは、少し「遺伝」の細かい話となります。遺伝を調べていっても、男性であればAGA発症のリスクは誰にでもあり、「自分はAGAにならない体質だ!」と安心できる内容ではありませんが、遺伝の流れやある程度のリスクを知ることができますので、心配されている方は理解しておくと良いでしょう。

AGAと関係するヒトの遺伝子

ヒトの遺伝子染色体は、通常は22対の常染色体と1対の性染色体の23対46本の染色体があります。その中でAGAと関係のある「男性ホルモン受容体遺伝子」は、性染色体のX染色体に存在することが知られております。以下で詳しくご説明しますが、男性のX染色体は母方より引き継がれるため、「母方の祖父」や「母方の祖母方の曾祖父」がAGAであった場合には、ご自身がAGA体質である可能性が高くなります。

また常染色体の17q21*1、20p11*2とAGAに関連があることが「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」に明記されており、こちらは「父方」からも「母方」からも遺伝する可能性があります。

参照男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版
※2765ページ「1.疾患の概念」を参照

※画像転載⇒wikipedia 染色体ページより

遺伝子の17q21*1や20p11*2ってどういう意味?!

17q21とは、17番遺伝子の長腕領域2の1番目の縞という意味です。20p11は、20番目遺伝子の短腕1領域の1番目の縞を意味しています。科学の進歩によって、遺伝子のどの部分がどのように関わっているのか解明されており、研究者の方々には頭が下がる思いです。遺伝子にご興味ある方は以下ページもご覧になってみてください。
参考一般社団法人 日本家族計画協会 遺伝のはなし・外部サイト

AGAの主な原因は、毛乳頭細胞で男性ホルモン受容体の感受性が高いことやジヒドロテストステロン(DHT)が過剰に作られてしまう、又はその両方が原因ですが、「男性ホルモン受容体の感受性が高い遺伝子」を引き継ぐとAGAを発症するリスクが高いと言えます。これは、他の遺伝子が正常で、髪の毛の毛乳頭で作られるジヒドロテストステロン(DHT)量が正常量であっても、過敏な男性ホルモン受容体が反応して「髪の毛」の生産を弱めてしまうからです。

一方で、5-α還元酵素の活性が高く、ジヒドロテストステロン(DHT)の作られる量が多い体質の遺伝子を引き継いでいたとしても、「男性ホルモン受容体の感受性が正常」の場合には、DHTが毛乳頭内に多くなっても、受容体が反応しなければ、髪の毛の生産は弱まらないため、AGAの症状がでなかったり、軽度な状態となることもあります。

「男性ホルモンレセプターの感受性が高い遺伝子」を引き継ぐとAGAになる可能性が高い

AGAは、X遺伝子が大きく関わりますので、少しややこしいですが、性染色体X遺伝子について掘り下げて見ていきます。

まずヒトの性別は、通常父親から1本、母親から1本の染色体を引継ぎ、2本の組み合わせによって性別が決定します。1本のX染色体と1本のY染色体のペアができると「男性」X染色体同士のペアの場合には「女性」となります。

男性の性染色体のX染色体は母親が持つ2本のX染色体のどちらかから、Y染色体は100%父親側から引き継がれるため、X染色体上に遺伝情報のある男性ホルモンレセプターの感受性は母親から引き継がれます。

では、そのAGA因子を持つX遺伝子は誰からどのように引き継がれてきているのでしょうか?下図のように、X遺伝子を3世代前まで遡って流れを調べてみます。今回の図では、すべてのX遺伝子にAGA因子があると仮定して作図しています。

AGAは男性に発症しますので、つい自身の父親や祖父の髪の毛を思い浮かべてしまいますが、男性ホルモンレセプターの感受性に関わる「X遺伝子」については、母方の家系の男性を確認する必要があります。まず、母方の祖父がAGAであった場合、母方の祖父から自身の母親へは、AGA要因のあるX遺伝子(図⑧or⑨)が一本100%引き継がれており、母親の持つ2本のX染色体のうちの1本がAGA要因があるものとなりますので、自身にも遺伝している可能性が高いと言えます。また母方の祖母方の曾祖父(図⑩)もAGAの場合には、AGA要因のあるX遺伝子が自身に遺伝している可能性がさらに高くなります。

一方で、母方の祖母方の曾祖母のX遺伝子(図⑪or⑫)を引き継いでいる場合には、曾祖母、祖母、母親と女性が遺伝子を引き継いできているため、AGAの遺伝子が引き継がれているにも関わらず女性なので発症せず、その遺伝子を引き継いだ男性であるご自身だけがAGAを発症する可能性もあります。

一方で、性染色体ではない常染色体の17q21*1、20p11*2にもAGAの原因となる遺伝情報が存在すると考えられており、前頭部や頭頂部の毛乳頭で「5α還元酵素の活性が高くジヒドロテストステロンが作られやすい体質」などAGAを発症させる可能性があります。この常染色体は「父方」「母方」のどちらからも引き継がれるため、両親や祖父母に薄毛の方がいる場合にも、AGAになりやすい体質である可能性があります。

母方の祖父がAGAの場合には、リスク大!

遺伝を調べるだけでAGA体質かどうかを100%知ることはできませんが、上記でご説明の通り、母方の祖父が進行したAGAで、AGA要因をもったX遺伝子を持っている場合には、ご自身の母親のX遺伝子のうちの少なくとも1本はこのX遺伝子が引き継がれています。そのため、ご自身にも遺伝している可能性が高まるため、より注意が必要です。AGAの症状が気になる場合には、出来るだけ早めにフィナステリド、デュタステリドの飲み薬やミノキシジルの塗り薬を使用して、予防していくことが重要です。

「父親」や「父方の祖父」が進行したAGAでも、自身が同じようにAGAになるとは限らないが、注意が必要!

ご自身の「父親」や「父方の祖父」が、AGAであったとしても、上記でご説明した通り、父親側からは、男性ホルモンレセプターの感受性の情報があるX遺伝子は継承されないため、同じようにAGAになるとは限りません。ご自身にAGAの症状がない場合には、過度に心配する必要はありませんが、AGAの原因となる常染色体を引き継いでいる可能性があります。ご自身にAGAの症状が出てきた場合には、早めにフィナステリドやデュタステリドの内服薬とミノキシジルの外用薬の使用を検討した方がよいでしょう。

「父親」や「両親の祖父」にAGAの人がいなくても、自身だけAGAを発症することがある!

「曾祖母」→「祖母」→「母」と女性によって引き継がれてきたX遺伝子がご自身に引き継がれている可能性もあります。「曾祖母」「祖母」「母」は女性のためAGAを発症しませんが、男性であるご自身だけAGAを発症する可能性があります。血縁のある人に脱毛症状がある人がいなくても、男性であれば、誰しもがAGAを発症する可能性があると言えます。

AGA治療で重要なことは、薄毛が少しでも気になりはじめたら、早めに対策をすることです。毛乳頭細胞や毛母細胞の活性が大きく低下し、髪の毛のミニチュア化が始まってしまうともとの状態に戻すのは時間がかかります。またAGAがかなり進行した状態ですと、毛乳頭細胞や毛母細胞の活性がもとに戻らないこともあります。症状に気が付いたら早めに対応していきましょう。
参考13種類のAGAの治療方法を詳しく見る

ジヒドロテストステロンの生成を抑制する「内服のAGA治療薬」

AGAの進行は、ジヒドロテストステロン(DHT)の働きによるものですから、内服のプロペシア錠(フィナステリド)又はザガーロカプセル(デュタステリド)のどちらからのAGA治療薬の服用で、まずはジヒドロテストステロンによって抑制指令を出している毛乳頭細胞を正常な状態に戻す必要があります。

参考AGAとは?AGAの原因物質ジヒドロテストステロン(DHT)

また、プロペシア錠、ザガーロカプセル共に特許が切れており、厚生労働省認可の安いジェネリック医薬品も登場してきており、多くの患者様がジェネリック医薬品を利用されています。

⇒ プロペシア1mg(オルガノン株式会社)
⇒ ザガーロカプセル0.5mg(グラクソ・スミスクライン株式会社)
⇒ フィナステリド錠1mg(プロペシアのジェネリック医薬品)
⇒ デュタステリドカプセル0.5mg(ザガーロのジェネリック医薬品)

フィナステリド、デュタステリドの内服は、どちらも日本皮膚科学会で最高クラスの「推奨ランクA」に指定されています。
参照男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版
※2766-2768ページ「CQ1」「CQ2」を参照

血流促進、成長因子の増加が認められる「ミノキシジルの外用薬」

フィナステリドかデュタステリドの服用が治療の第1優先となりますが、費用に余裕がある場合には血流を促進し毛乳頭細胞へ栄養を届きやすくしたり、毛母細胞の分裂を促し髪の毛の合成を促すミノキシジルの外用薬も併用することをオススメ致します。また最近では、休止期から新たな髪の毛が生えはじめる発毛効果がある「PDGFA」を増加させることをロート製薬が発表しています。
参照ロート製薬の発毛研究(ロート製薬ホームページ・外部サイト)

当院でも、東和薬品社製の「ミノアップ」と富士化学工業社製の「ミノキシジルFCI」を処方しております。

⇒ ミノアップ(ミノキシジル外用薬・東和薬品社製)

ミノキシジルの外用薬も、日本皮膚科学会で最高クラスの「推奨ランクA」に指定されています。
参照男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版
※2769ページ「CQ3」を参照

※ミノキシジルの内服薬は、安全性が確立されておらず、厚生労働省を含めて全世界的にAGA治療では未承認となりますので、ご注意ください。

参考ミノキシジルタブレットの危険性

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