PDE阻害作用の違い
浜松町第一クリニック 竹越昭彦院長 監修
ED治療薬3剤のPDE阻害作用~比較表
Sildenafil シルデナフィル 【バイアグラ】 | Vardenafil バルデナフィル 【レビトラ】 | Tadalafil タダラフィル 【シアリス】 | ||
---|---|---|---|---|
Tmax (h) | 1 (0.5~1.5) | 0.8 (0.7~0.9) | 3 (0.5~4.0) | |
T1/2 (h) | 3~4 | 3.2~5.3 | 14~15 | |
生物学的利用率(%) | 41 | 14.5 | 得られていない*¹ | |
IC50 (nM) | PDE1 | 281 | 70 | 30000~ |
PDE5 | 3.5 | 0.14 | 6.7 | |
PDE6-rod (光覚) | 37 | 3.5 | 1260 | |
PDE6-cone (色覚) | 34 | 0.6 | 1300 | |
PDE9 | 2610 | 581 | 100000~ | |
PDE11 | 2730 | 162 | 37 |
*¹【シアリスのインタビューフォーム抜粋】
タダラフィルは不溶性かつ非イオン化物質であるため、ヒトへの静注投与製剤を開発していない。このため、絶対的バイオアベイラビリティは得られていない。
<参考>ラットにおけるバイオアベイラビリティは、雄で53%、雌で34%であった。イヌにおけるバイオアベイラビリティは、雄で18%、雌で10%であった。
タダラフィルは不溶性かつ非イオン化物質であるため、ヒトへの静注投与製剤を開発していない。このため、絶対的バイオアベイラビリティは得られていない。
<参考>ラットにおけるバイオアベイラビリティは、雄で53%、雌で34%であった。イヌにおけるバイオアベイラビリティは、雄で18%、雌で10%であった。
ホスホジエステラーゼの人体における作用表
主な組織発現部位 | PDEによる機能的意義 | |
---|---|---|
PDE1 | 脳、心臓、骨格筋、肝臓、血管、筋肉、内臓筋 | 血管の筋肉の脱力感、味覚、嗅覚 |
PDE5 | 海綿体、血管および内臓筋、血小板 | 勃起、平滑筋の緊張、血小板凝集 |
PDE6 | 網膜(cone/錐体【色覚】、rod/桿体【光覚】) | ビジョン中の情報伝達 |
PDE9 | 脳、脾臓、小腸 | |
PDE11 | 骨格筋、心臓、血管、筋肉や内臓筋(海綿体、前立腺)、下垂体、精巣、肝臓、腎臓 |
参考文献⇒EUROPEAN JOURNAL OF MEDICAL RESEARCH
2002年10月29日 Eur J Med Res (2002) 7: 435-446(ERECTILE DYSFUNCTION: COMPARISON OFEFFICACY ANDSIDE EFFECTS OF THEPDE-5 INHIBITORS SILDENAFIL, VARDENAFIL AND TADALAFILREVIEW OF THE LITERATURE)
上記表の説明・分析および解説
「Tmax」とは
最高血中濃度到達時間のこと。
つまり薬を服用してから血中濃度が最大値になるまでの時間。ちなみに最高血中濃度のことを「Cmax」と表します。この表よりバルデナフィル【レビトラ】が一番早く最高血中濃度に達する。つまり効果発現時間が一番早いことがわかります。シアリスの0.5~4時間という数値から他の2剤よりも時間がかかることがあるということが分かります。よって、かなり早めの服用が無難であるというとになります。「T1/2」とは
血中濃度半減期、または消失半減期のこと。
血中濃度が最大値の半分以下になる時間のことをいいます。表からシルデナフィル【バイアグラ】は半減期(T1/2)が早めなため持続時間が他の2剤よりも短くタダラフィル【シアリス】が長時間作用するということがおわかりいただけると思います。生物学的利用率とは
バイオアベイラビリティーともいい、摂取した薬剤の有効成分が体全体に吸収する割合のことを言います。
つまり血管から直接注入する静脈注射の生物学的利用率は100%となります。表を見るとバルデナフィル【レビトラ】が一番、率が低いのですが、後に説明している「PDE5」の阻害作用が強いため他の2剤に引けを取らない効き目なのでしょう。
シルデナフィル【バイアグラ】は生物学的利用率40%と高い割合ですから比較的安定した効果の裏付けにはなるのではないでしょうか。この利用率の高さから大概の人に十分に効果があるので根強い人気があるのでしょう。IC50とは
「half maximal inhibitory concentration」の略で薬剤の投与により生物学的プロセスに結びつく要素である酵素、細胞、受容体、微生物等の半分を阻害するのに必要な有効成分の濃度を意味しているので数値が低ければ低い程、その薬剤の阻害作用が強いことになります。
※PDE(ホスホジエステラーゼ)は人を含め哺乳類には分けて11まであり、それらをPDEファミリーと称されています。PDEの役目は細胞内のメッセンジャー(シグナル伝達)である環状ヌクレオチド(cAMPやcGMP)を分解し、そのシグナル伝達を調整するという非常に重要な役割をしています。上記表はシルデナフィル・バルデナフィル・タダラフィルのPDF阻害作用に関して、どれか一つでもIC50が1,000nM以下のものを取り上げまとめたものです。PDE1とは
下の表のように脳、心臓、骨格筋、肝臓、血管、筋肉、内臓筋に発現するPDEですからこれを阻害する効果の一番高いバルデナフィル【レビトラ】続いてシルデナフィル【バイアグラ】はタダラフィル【シアリス】よりも「顔のほてり」「目の充血」「動悸」「頭痛」などの副作用があるという裏付けと言っても過言ではないでしょう。PDE5とは
cGMP(環状グアノシン一リン酸)を壊す酵素です。
勃起をする時に脳から神経を介してNO(一酸化窒素)が放出され局部の細胞内にcGMPという血管を拡張させる物質が増え、陰茎海綿体の平滑筋が緩むことで海綿体に血液が流れ込み勃起するのです。そして勃起が萎える際にPDE5という酵素が放出されcGMPを壊すことで海綿体の血管が収縮して勃起が治まります。上の表でいくとPDE5阻害作用が最も強いのはバルデナフィル【レビトラ】であることがおわかりいただけます。PDE6とは
主に網膜にある酵素です。
眼球内に入った光が奥の網膜に集まり、そこから光の信号が視神経、脳へと伝わることで人は眼が見えています。この脳への伝達に関わる酵素がPDE6です。シルデナフィル【バイアグラ】とバルデナフィル【レビトラ】はタダラフィル【シアリス】よりもPDE6阻害作用があるので眩しく見えたり、青白く見えたりという視界による副作用が多いという明確な根拠となります。PDE9は
人では脳、脾臓、小腸などに発現が認められています。
特にネズミやリスなどには脳の局在が解析されており、PDE9は脳の全領域にて発現することが解明されています。バルデナフィル【レビトラ】が一番ですがIC50が581nMですから、さほど阻害作用は強くはありません。しかし3剤の中で一番阻害作用があるので、その分副作用に反映されているのはあるかもしれません。PDE11とは
体全体にある酵素で役割等の詳細は、まだ解明されていませんが犬を用いた実験では精子の減少が報告されています。
表を見る限りタダラフィル【シアリス】がPDE11の阻害作用が強いのがわかります。これにより何かしらの副作用に繋がっていることは確かですがPDE11は身体の様々なところに存在し、未だ詳しい解明がなされていませんので因果関係を掴むことは難しいでしょう。