非定型うつ病とED【勃起不全】
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浜松町第一クリニック 竹越昭彦院長 監修
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非定型うつ病とは、従来の「好きなことをしても楽しめない」「食欲がなく痩せていく」「性欲が低下する」などのうつ症状とは異なり、「好きなことは楽しめる」「良いことがあれば気分は良くなる」が、逆に「少しでも嫌なことがあると著しく気持ちが沈んでしまう」症状で、通常のうつ病とは異なり、「食欲が増し太る」「過眠」「性欲が増加する」こともあります。健康な方でも、もちろん気分の浮き沈みはありますが、非定型うつ病はその度合いが顕著で、病的な状態を指します。他の方から見ると、ただ単に「ワガママなだけではないか?」「打たれ弱いだけではないか?」と考えられがちですが、本人にとっては、他の方が考えている以上に辛い状態にあります。社会人では、仕事の日は、うつ状態となり気分が極端に沈み起き上がれなくなったりするが、休みの日ではそのようなうつ症状が軽くなる又は消える状態が例として挙げられます。
アメリカ精神医学会が出版している、精神疾患の診断基準・診断分類「DSM-IV(1994年)」に「Atypical depression」の疾患名で定義され、日本語で「非定型うつ病」と訳されました。具体的なその定義は以下とされています。(WHOが定義するICD-11 において非定型うつ病は採用されていない)
非定型うつ病の定義
うつ病症状の最近2週間に以下の特徴が優勢である時、または気分変調性障害の最近の2年間にこれらの特徴が優勢な場合
A.気分の反応性(現実の、または可能性のある楽しい出来事に反応して気分が明るくなる)
B.次の特徴のうち2つ(またはそれ以上)
(1)著名な体重増加または食欲の増加
(2)睡眠過剰
(3)鉛様の麻痺(手や足の重い、鉛の様な感覚)
(4)長期間に渡る、対人関係の拒絶に敏感であるという様式(気分障害のエピソードの間だけに限定されるものでない)で、著しい社会的または職業的障害を引き起こしている。
C.メランコリー型の特徴、または緊張病性の特徴の基準を満たさない。
非定型うつ病が定義されるまでの歴史
非定型うつ病は、それまで神経症あるいはもともと持っている性格などパーソナリティ障害の治療を行っているときに、電気けいれん療法(ECT)や三環系抗うつ薬(TCA)で効果がない「軽症慢性うつ病群」の一部に、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)の効果が確認されたことがその始まりです。その後、様々な症候学*¹ 的な意見がまとめられ、「非定型うつ病」として別の疾患として定義づけされました。
*¹ 症候学(しょうこうがく)とは、患者さんの示す様々な訴えや診察所見を分類し、1つの疾患として定義すること。
非定型うつ病は、軽症で慢性経過をとる非内因性うつ状態のうち、MAOI薬が特異的に効果がある病態とされました。一方で、従来の定型うつ病は、「三環系抗うつ薬(TCA)や電気けいれん療法(ECT)が奏功する内因性うつ病のこと」と考えられています。症状としては、不安を主要特徴とするものや、食欲、体重、睡眠、性欲の増大があり、発症年齢が早く20~30代女性に多く、自殺企図がまれです。最近では、概念の広がりとともに、様々な病態が非定型うつ病に含まれてしまうようになってきており、軽度の「双極性障害」なども非定型うつ病と診断されるケースも多々あります。
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気分の反応性
良いことがあれば気持ちが良くなり、逆に悪いことがあれと気持ちは沈むのは、健常者に置いても起こり得ることです。これだけであれば、疾患の特徴とはなり得ません。もう少し細かく説明すると、うつ症状があるが『気分の非反応性』という病的な症状がない、という事になります。定型うつ病であれば、ほとんど毎日の抑うつ気分が持続しており、気分の反応性が認められない病的状態にあります。非定型うつ病では、こういった状態は認めず、気分の反応性がある、という事になります。すなわち、自身に対し良いことがあったり、好きな事をしている時は、うつ 症状が軽くなったり、消えたりすることもあります。逆に嫌なことがあるとささいな事であっても気分がふさぎ落ち込んだり、身体が鉛のように重くなり、動けなくなったりします。
著名な体重増加または食欲の増加、睡眠過剰
従来のうつ病であれば、食欲不振と不眠が起こるため、非定型うつ病とは逆の状態になり、大きな違いとなります。
鉛様の麻痺(手や足の重い、鉛の様な感覚)
手足・全身が鉛のように重くなってしまったように感じる症状。ひどく気分が落ち込んだ時(気分反応性)に現れます。通常の疲労感、倦怠感と違い、全身に極度のだるさがでるため、起きていること自体困難になります。上記でも書きましたが、一緒に過眠も伴う事が多いので、ずっと横になって動けない状態になってしまう事が多いです。
長期間に渡る、対人関係の拒絶に敏感であるという様式
(気分障害のエピソードの間だけに限定されるものでない)で、著しい社会的または職業的障害を引き起こしている
人から自分への否定的な言動に対して激しく敏感に拒絶反応(落ち込み・ひきこもり・けんか・口論)してしまう症状。他人の通常の行動でも、本人の解釈によっては、侮辱・軽視・批判されたと捉え、拒絶反応を起こす事もあります。
前述の通り、非定型うつ病の根本の定義は『非内因性うつ状態』である事から分かるように、ストレスを始めとした外的要因と考えられていますが現在のところ原因は解明されていません。
様々な非定型うつ病の病像が提唱されてきていますが、大まかにまとめると3種に分類されます。
(a) 若年発症の軽症慢性うつ状態で、対人関係に敏感な女性に多く、病的なうつ状態とパーソナリティ傾向との区別が困難な群
(b) 発症年齢性別を問わず、周期性反復性の急性うつ状態(その多くは双極性障害)であり、過眠や過食、性欲の増加などの症状と脱力感を示す群
(c) DSM-IV の非定型うつ病概念から a と b を差し引いた群
以上の3種となります。
この中では、やはり a 群がその起源を考えると、当初定義された「非定型うつ病群」であると思います。そしてこの a 群は、非定型うつ病の概念ができる前は、しばしば境界性・演技性あるいは回避性パーソナリティ障害と診断されていた病態です。
この a群に対する治療法では、MAOI が有効であるという点ですが、DSM-IV の非定型うつ病の診断基準では、非定型うつ病とは a+b+c といった具合に現在では拡大解釈となって来ており、非定型うつ病という概念がなかった場合、パーソナリティ障害や軽度の双極性障害として診断される病態を、現在では「非定型うつ病」として総括して呼んでいるのだと思います。
患者様へ病態を説明するのに、非定型うつ病として、パーソナリティ障害として、双極性障害として、どの説明を行うのが望ましいのか、という点はとても根深い所です。現在では、「うつ病」という名前が広く知れわたるようになったので、病名の宣告としては非定型うつ病と説明されるのが、患者さんにとってももっとも分かりやすいのではないでしょうか。患者様の病態を考えて双極性障害やパーソナリティ障害として説明する方が病態の説明としては理にかなっていたとしても、患者様自身・そして患者様の周りにいる人にとって 、「(非定型)うつ病」という「よくわからないけどうつ病らしい」という説明の方が簡単で受け入れやすいのだと思います。この病名をつけるほうが、パーソナリティの考察などせずに済みますし、医療者側としても「付けやすい」病名になっているのは確かです。
個人的には、患者様の病態がより分かりやすく説明できるやり方が良いと思います。すなわち、パーソナリティ障害か非定型うつ病、双極性障害なのか、といった議論自体に全く意味がないことだと思います。
非定型うつ病によるED症状
非定型うつ病では、一般的に知られるうつ病の症状とは逆に、食欲、体重、睡眠、性欲の増大を認める場合があります。性欲が上がることがあり、性欲はあるが勃起力がついていかないという場合には、ED症状を認めるケースもあります。ED症状がある場合には、バイアグラなどのED治療薬が大きく効果を発揮する場合も多いので、気になっている方は試してみるといいでしょう。
うつ病治療薬による薬剤性ED
非定型うつ病に対して MAOI が奏功するという報告は海外でありますが、日本では保険治療として認められていません。そのため、治療薬としては抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬、抗精神病薬などが使用されることになるかと思います。
その際には、副作用として薬剤性EDが疑われる薬剤もあり、注意が必要です。抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬、抗精神病薬などとED治療薬との併用に関しては問題なく、効果が出る可能性も高いです。