ジェネリック医薬品の正しい理解
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浜松町第一クリニック 竹越昭彦院長 監修
最近では「ジェネリック医薬品」という言葉は広く世間に浸透し、よく耳にするようになりました。ジェネリック医薬品と聞いて多くの人が思い浮かぶのは、「先発医薬品と同じ成分・同じ効き目があり、より安価な薬」ということでしょう。同じ効果をもたらす薬が、より安く購入できるのであれば、そちらを選ばないという手はありません。
厚生労働省がその利用を推進し、ジェネリック医薬品メーカーもこぞって変わらない効き目と安さをアピールするジェネリック医薬品。はたして、そんなに良いことずくめの、メリットのみを与えてくれる薬なのでしょうか。
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まず、特定のメーカーが従来なかった薬効成分を持つ薬を開発し、厚労省より製造販売承認を得て販売開始された医薬品を「先発医薬品(先発品または新薬)」といいます。
先発品の開発には、十数年にもおよぶ長い研究期間と莫大なコストがかかるため、それを手掛けることができるのは、資金力のある大手の医薬品メーカーに限られています。先発品を開発した企業は、医薬品の構造や製造方法、有効成分、用途について特許権を取得し、特許期間中の20年間はその薬の製造・販売を独占することができます。(延長出願すると最長で5年延長が認められます。その場合、特許期間は合計25年となります。)
その後、先発品の特許期間が満了を迎えると、その薬と同じ有効成分、同じ効果効能のお薬を他の医薬品メーカーが製造・販売できるようになります。このお薬を「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」といいます。
ジェネリック医薬品は先発医薬品と同じ成分が含まれ、同じ効果を持つとされていますが、実はこれには大きな落とし穴があります。ジェネリック医薬品を製造・販売するためには、先発医薬品の持つ特許のうち、新しい物質に与えられる「物質特許」、特定の物質に対する新しい効能・効果に与えられる「用途特許」の2つの期間が満了していなければなりません。これにより、ジェネリック医薬品は先発医薬品と「主成分」を同じにすることができます。
しかし、薬の特許にはそれ以外にも、物質の新しい製造方法に与えられる「製法特許」、薬を製剤する上での新しい工夫に与えられる「製剤特許」などがあり、前述した2つの特許が切れたあとも、これらの特許には有効期間が残っている場合が多々あります。もし、製法特許が切れていなければ、薬のコーティング部分に使われる添加物などを先発医薬品と同じにすることができません。また、製剤特許が切れていなければ、錠剤・カプセル・粉末などといった薬の剤形も、先発医薬品と同じにすることができません。
例えば飲み薬の場合、同じ主成分が同じ量だけ入っていたとしても、上記の条件が変わることにより、薬が吸収される速度や、有効成分が分解される状態が異なり、薬の作用そのものが多少は変わってしまう可能性があります。つまり、「薬が効きすぎる」または「効果が出にくい」、「副作用の出方に違いが出る」などといった差が生じてくる可能性があるわけです。
では、なぜジェネリック医薬品が先発医薬品と変わらない効果を謳っているかというと、有効成分の効果を促進させたり妨げたりする物質を添加剤として使用することを禁止していること。また「有効性の試験」において「先発品に比べ統計学的に見て差が無い」とされているからです。しかし、差が無いとみなす許容域を±20%(対数変換を行う場合は80~125%)としているので、厳密にいえば「有効性が完全に同じ」という表現には少し疑問が残ります。
これに対して厚労省は「許容域の幅は、ジェネリック医薬品と先発医薬品の治療効果の差を意味するわけではなく、医薬品を服用した後の血中濃度が、被験者の体質や体調によって大きくばらつく中で、統計的な評価を適確に行うために設定されたものであるので、この許容域を満たせば、治療効果は安全域をもって同等となる」と見解を示しています。
参照 ⇒ ジェネリック医薬品への疑問に答えます|厚生労働省:PDF
(※質問3を参照)
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次に、ジェネリック医薬品は先発医薬品に比べ「値段が安い」という点ですが、こちらも単純に患者の負担が少なくなるという利点のみではありません。
先発医薬品の価格が高いのは、医薬品メーカーが先発医薬品を販売して得た利益から、これまでにかかった莫大な開発費用を回収し、また新たな薬を開発するための費用へと繋ぐ必要があるためです。ここで、価格の安いジェネリック医薬品が広く普及してくるようになると、このようなサイクルが崩れ、先発医薬品メーカーは開発にかけたコストが回収できず、新たな薬の開発に充てる費用が作れなくなる可能性が出てきます。
日本には、新薬の開発を待つ疾病がまだまだたくさんありますが、新しく有効な治療薬やワクチンが開発される意義は、「病を完治させる」ということだけには留まりません。治療期間の短縮、あるいは最初から病気が防げるようになるので、国民が負担する医療費はこれまで以上に少なくて済むということにも繋がります。
つまり、常に新薬を開発し続けて行くということは、厚生労働省が唱える「安い薬代での医療費削減」に対して、それとは全く異なる「長期的な視点からの医療費削減」に繋がるとも考えられるのです。
医療費の動向|厚労省
平成 26年度 |
平成 27年度 |
平成 28年度 |
平成 29年度 |
平成 30年度 |
令和 元年度 |
令和 2年度 |
令和 3年度 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
医療費(兆円) | 40.0 | 41.5 | 41.3 | 42.2 | 42.6 | 43.6 | 42.2 | 44.2 |
医療費の伸び率(%) | 1.8 | 3.8 | ▲0.4 | 2.3 | 0.8 | 2.4 | ▲3.1 | 4.6 |
受診延日数の伸び率(%) | ▲0.3 | 0.2 | ▲0.7 | ▲0.1 | ▲0.5 | ▲0.8 | ▲8.5 | 3.3 |
1日当たり医療費の伸び率(%) | 2.1 | 3.6 | 0.3 | 2.4 | 1.3 | 3.2 | 5.8 | 1.3 |
ではなぜ国は国民に、これほど強く、ジェネリック医薬品の利用を勧めているのでしょうか。それは、日本人のほぼ全員が加入している「健康保険」の財政が逼迫しているところに理由があります。保険でカバーする高齢者の医療費が高騰する中、政府はそこに明確な答えがあるとは考えにくいまま、少しでも医療費を減らすため、ジェネリック医薬品の普及に乗り出したのです。
厚生労働省はこれまで、2006年4月と2008年4月の2回にわたって、ジェネリック医薬品の使用をさらに高めるべく、処方箋の様式を変更しています。2回目の様式変更では、医師が処方箋の「後発医薬品への変更不可」という欄に署名をしない限り、患者さんは自身の判断で薬局で薬剤師と相談の上、先発医薬品をジェネリック医薬品へと変更できるようになりました。これによりジェネリック医薬品の利用は、より気軽に行えるようになったわけです。
さらに厚生労働省では2015年6月の閣議決定において、ジェネリック医薬品の国内普及率を2017年度中に70%以上にして、2018年度から2020年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上とする、新たな国内普及率目標が定められました。
その後、2017年6月の閣議決定にて、80%達成は2020年9月までという目標を定められ、以下のジェネリック医薬品数量シェアの推移の通り、2020年第4四半期に達成しましたが未達が続き、ようやく2022年第2四半期、第3四半期と連続で80%以上は達成して安定しそうではあります。
未達が続いた理由として度重なるジェネリックメーカーの不祥事により出荷停止及び薬品製造工場の稼働停止を余儀なくされ、国内全体のジェネリック医薬品の安定供給が儘らない深刻な状態が続いていたこと等があげられます。
現在の目標は、2021年6月の閣議決定での「後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性確保を図りつつ、2023年度末までに全ての都道府県で80%以上」が設定されております。
ジェネリック医薬品数量シェアの推移
第1Q 4月~6月 | 第2Q 7月~9月 | 第3Q 10月~12月 | 第4Q 1月~3月 | |
---|---|---|---|---|
2022年 | 79.8% | 80.3% | 81.2% | - |
2021年 | 79.8% | 79.2% | 79.3% | 79.9% |
2020年 | 79.3% | 78.9% | 79.4% | 80.1% |
2019年 | 75.8% | 76.9% | 77.1% | 78.5% |
2018年 | 72.2% | 73.2% | 74.7% | 75.7% |
2017年 | 67.8% | 68.8% | 68.9% | 74.1% |
2016年 | 63.7% | 65.1% | 66.4% | 67.1% |
2015年 | 57.1% | 58.8% | 59.9% | 62.3% |
2014年 | 53.1% | 54.3% | 55.7% | 56.8% |
2013年 | 46.8% | 47.3% | 48.8% | 52.3% |
※日本ジェネリック製薬協会調べ(一部IQVIAデータ使用)
参照 ⇒ 令和4年度第3四半期のジェネリック医薬品数量シェア分析結果|日本ジェネリック製薬協会
ジェネリック医薬品希望カードのダウンロード[PDE:141KB]
医師に口頭で伝えるか希望カードを提示する
診察の際に医師に「ジェネリック医薬品の処方をお願いします」と伝えるか、上記の「ジェネリック医薬品希望カード」を提示することでジェネリック医薬品の処方を受けられます。(このカードは決められた様式はありませんのでgoogle等で「ジェネリック医薬品希望カード」で検索して気に入ったものをプリントしても問題ありません。)
健康保険証にシールを貼っておく
健康保険証やお薬手帳にジェネリック医薬品希望シールを貼っておくことで病院や調剤薬局にジェネリック医薬品希望の意思表示をすることが可能ですのべ便利です。
以下、厚労省HP内の「ジェネリック医薬品希望シール」をダウンロードして貼り付けて下さい。また、お住まいの管轄の市役所や区役所の国保保健事業担当の部署にシールの在庫がある場合はシールを貰えると思いますので問合せてみるとよいでしょう。
ジェネリック医薬品希望シールのダウンロード[PDE:887KB]
ジェネリック医薬品について、良いことばかりではない点をいくつか挙げてきましたが、一方で、いくつものメリットがあることも事実です。
日本におけるジェネリック医薬品の承認基準は、他の国と比べて圧倒的に厳しいものとなっています。したがって、その厳しい基準をクリアしたジェネリック医薬品は、かなり信頼のおけるものであることは確かです。また、ジェネリック医薬品の価格は、先発医薬品の価格が不当に高額になることを防ぎ、価格の適正化を促進することにも貢献しています。一概に「これは良い」「これは悪い」と結論が出る問題ではありませんが、いずれにしろ、自分が服用する薬についてまずはきちんと知ることが大切です。「薬局で勧められたから」「値段が安かったから」というだけでジェネリック医薬品を選ぶのは、それなりのリスクが伴うことを忘れてはいけません。自分から積極的に薬に関する知識を得て、より自分に合う薬を見つけることが大切です。
現在、ED治療薬の代表的なものには、「バイアグラ」「レビトラ」「シアリス」の3つがあります。これらはいずれも医療用医薬品として承認されているもので、病院で医師に処方してもらうことが可能です。ED治療薬は、これまで「心臓に負担がかかる」「糖尿病や高血圧の治療薬との併用は危険である」などと思われていましたが、実際にはそうではありません。血管の作用を本来の働きに戻す役割があるため、むしろ心肺機能や身体機能が強化され、冷え症や頻尿の改善、血管年齢の若返りなど、プラスアルファの効果も期待できることが判明しています。
ED治療薬のジェネリック医薬品については、「バイアグラ」が2014年5月に日本国内でもファイザー社製が所有する特許期間が満了をむかえ、日本国内でも厚生労働省認可のバイアグラジェネリック医薬品が発売・処方開始されております。
⇒バイアグラのジェネリック(シルデナフィル錠)
「シアリス」は2022年3月10日現在、沢井製薬、東和薬品、ファイザーを始め計9社がシアリスのジェネリックとして厚生労働省よりタダラフィル錠の製造承認を取得し既に各社発売されています。
⇒シアリスのジェネリック(タダラフィル錠)
「レビトラ」も2020年5月に特許満了日を迎え沢井製薬と東和薬品から厚労省から承認を得たバルデナフィル錠が国内正規品のレビトラジェネリック(バルデナフィル錠)として発売されています。
しかし、海外では、特許が満了を迎える数年前からシアリスのジェネリック医薬品として「タダリス」、レビトラのジェネリックとして「バリフ」といった薬が販売されています。このような薬がなぜ販売されているかというと、それらの多くが、ジェネリック医薬品に関する国際条約に準拠していないインドで製造されているからです。
ジェネリック医薬品はメリット・デメリットを踏まえた上で、正しい知織を元に「選ぶ」ことが重要と述べてきましたが、日本の厚生労働省によってその有効性や安全性が確かめられていない医薬品の服用は決して勧められるものではありません。たとえ自己責任において薬を選ぶことが可能であったとしても、信頼性の低い薬を服用することには多くの危険が伴うことを認識し、安易な自己判断は避けることが賢明でしょう。
以下のリンクは厚労省が提供する医薬品の個人輸入に対する注意事項です。目を通しておくことをお勧め致します。