高血圧とED(勃起不全)について

浜松町第一クリニック 竹越昭彦院長 監修

高血圧症は「血圧が正常範囲を超えている状態が継続する」疾患であり、年齢が上がるにつれて発生する割合が高くなる病気です。
2017年(平成29年)に行われた厚生労働省による「患者調査」の概況によれば、高血圧の患者数は合計796万7,000人と推計され、男性431万3,000人、女性564万3,000人とされ2014年に実施した調査から17万人(男性13万7,000人、女性3万3,000人)減少しています。

出典
日本生活習慣病予防協会ホームページ
高血圧の総患者数は993万7,000人
平成29年(2017)「患者調査の概況」より

高血圧の診断基準

高血圧治療ガイドライン2019」では以下の表のように段階別けをして診断し、医師が段階に適した治療方法を選択することになっています。※塗つぶし箇所が一般的にいう高血圧です。つまり収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上(最低血圧)で高血圧と判断されます。

分類 診察室で計測 家庭内で計測
正常血圧 「最高血圧:120mmHg未満」かつ
「最低血圧:80mmHg未満」
「最高血圧:115mmHg未満」かつ
「最低血圧:75mmHg未満」
正常高値血圧 「最高血圧:120~129mmHg」かつ
「最低血圧:80mmHg未満」
「最高血圧:115~124mmHg」かつ
「最低血圧:75mmHg未満」
高値血圧 「最高血圧:130~139mmHg」かつ/または
「最低血圧:80~89mmHg」
「最高血圧:125~134mmHg」かつ/または
「最低血圧:75~84mmHg」
I度高血圧 「最高血圧:140~159mmHg」かつ/または
「最低血圧:90~99mmHg」
「最高血圧:135~144mmHg」かつ/または
「最低血圧:85~89mmHg」
II度高血圧 「最高血圧:160~179mmHg」かつ/または
「最低血圧 100~109mmHg」
「最高血圧:145~159mmHg」かつ/または
「最低血圧 90~99mmHg」
III度高血圧 「最高血圧:180mmHg以上」かつ/または
「最低血圧:110mmHg以上」
「最高血圧:160mmHg以上」かつ/または
「最低血圧:100mmHg以上」
(孤立性)収縮期高血圧 「最高血圧:140mmHg以上」かつ
「最低血圧:90mmHg未満」
「最高血圧:135mmHg以上」かつ
「最低血圧:85mmHg未満」

高血圧には自覚症状がない場合も多々ありますが、さまざまな別の疾患を引き起こす病因にもなることから、注意が必要とされています。

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高血圧診断の段階別でEDの症状に変化があるかを調べるため当院にて行ったアンケート調査を実施しました。結果、血圧が高いとEDのリスクは高まることが明確にわかりました。

集計期間:2021年5月7日~9日
調査方法:インターネット集計
調査対象:日本全国の40~79歳の男性 合計4,000人(5歳階級ごとに500人)
  • EDではない:毎回、性交に十分な勃起を得ることができて維持することもできる
  • 軽度ED:たいていの場合、性交に十分な勃起を得ることができて維持することもできる
  • 中等度ED:時々、性交に十分な勃起を得ることができて維持することもできる
  • 重度ED:毎回、性交に十分な勃起が得られない。また、維持もできない
  EDではない 軽度ED 中等度ED 重度ED 合計
正常血圧 579 (59.3%) 201 (20.6%) 117 (12.0%) 79 (8.1%) 976 (100%)
正常高値血圧 543 (52.2%) 217 (20.9%) 154 (14.8%) 127 (12.2%) 1,041 (100%)
高値血圧 463 (45.17%) 215 (21.0%) 191 (18.6%) 156 (15.2%) 1,025 (100%)
最高血圧:140mmHg以上
かつ/または
最低血圧:90mmHg以上
298 (37.6%) 182 (23.0%) 156 (19.7%) 156 (19.7%) 792 (100%)
不明 89 (37.6%) 26 (15.6%) 18 (10.8%) 33 (19.9%) 166 (100%)

高血圧症に対してよく使用される薬として、「利尿薬」や「カルシウム拮抗薬」、「β遮断薬」「アンジオテンシンII受容体拮抗薬」「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」があります。

これらの薬の副作用でEDを引き起こす可能性もあり、注意が必要です。

利尿薬とカルシウム拮抗薬

血圧は血管と中を流れる血液の量で決まります。水道とホースの関係のように水流が多ければ、またホースが細ければ圧力は高くなります。反対に太いホースの中に少量の水が流れる場合は圧力が低くなるという原理です。

「利尿薬」は流れる血液の量を減らす効果を利用、「カルシウム拮抗薬」は血管を広げることで血圧の上昇を抑える降圧剤です。

「利尿薬」の効果は腎臓の働きに関連します。人の体を流れる血液は栄養分や酸素、二酸化炭素、老廃物を運ぶためのものであり水分を多く含みます。腎臓は主に血液中の老廃物と水分をろ過して尿として体外に排出するための臓器であり、血液中から水分が取り除かれることで血液の量が減少、血圧が適正に保たれます。「利尿薬」は腎臓から体外へ水分の排泄を補助する効果があり、結果的に高血圧の治療に役立ちます。

「カルシウム拮抗薬」は血管拡張作用をもつ薬です。血管を太く広げることで血圧の上昇を抑制、高血圧の治療につながります。「カルシウム拮抗薬」は構造の特徴から大別して3つに分類されますが、高血圧の治療に効果があるのは主にジヒドロピリジン系。高血圧治療の第一選択薬とされ幅広く患者様に使用されています。

アンジオテンシン系降圧剤

「β遮断薬」「アンジオテンシンII(2)受容体拮抗薬」「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」の3つは、いずれも「アンジオテンシン」と呼ばれる生理活性物質に着目した降圧剤です。「アンジオテンシン」にはI(1)からIV(4)の4種類があります。腎臓から分泌される「レニン」と呼ばれる生理活性物質の作用により、まず「アンジオテンシンI(1)」が作られます。その後「アンジオテンシン変換酵素(ACE:angiotensin converting enzyme)」の働きによって生成された物質は「アンジオテンシンII(2)」に変換されます。この「アンジオテンシンII(2)」が受容体と結合することで血圧が上昇することがわかっています。

アンジオテンシンの働きを利用した血圧コントロールには、3つのアプローチが考えられます。

第一は「アンジオテンシンI(1)」の原因となる「レニン」の分泌を防ぐことです。交感神経のアドレナリン受容体の一種「β1」を阻害することによりレニン放出が抑制され、「アンジオテンシンI(1)」の生成を抑えます。この方法を利用する薬剤が「β遮断薬」です。

(β遮断薬は、心拍数・心拍出量の減少によって、血圧を低下させる作用との相乗効果があります)

二番目は「アンジオテンシンII(2)」が受容体と結合することを防ぐ方法です。受容体は2種類「AT1受容体」と「AT2受容体」があることが知られており、ほとんどは「AT1受容体」と結合し血管を収縮することで血圧の上昇が起こります。「アンジオテンシンII受容体拮抗薬」は「AT1」との結合を直接阻害し、高血圧の原因を取り除きます。

第三のアプローチは「アンジオテンシンII(2)」を生成する ACE の働きを妨害することです。「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」がこの効果による降圧剤です。酵素の英名から「ACE 阻害薬」とも呼ばれます。

高血圧の方では、動脈硬化が進んでいる可能性が高く、それだけでもEDのハイリスク群ですが、さらに高血圧の治療で降圧剤を服用されている方は、動脈硬化と降圧剤の副作用のダブルパンチでED症状が出ている可能性があります。器質性と薬剤性の複合型EDです。

中折れや勃起に十分の硬さが出ないなどのED症状がある場合は、降圧剤とバイアグラなどのED治療薬の併用は可能で、多くの方が満足いく勃起を取り戻していますので、試してみると良いでしょう。

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